積極的疫学調査のゆくえー市内で32例目

2020年4月10日[カテゴリ:コラム, 医療政策, 危機管理

先日、市に対して質問(←クリックするとコラム「オープン西宮。。。ー2日間で6人の感染を確認」をご覧頂けます)をしたと掲載しました。

4月3日(金)14時過ぎに提出した質問に対する回答が、4月9日(木)15時過ぎに返ってきました。

不明な点が多すぎたことから、質問が7項目と多岐に渡ってしまい、これらがまとめて回答されるため、これだけの時間がかかるということがわかりました。
今後は、小出しに質問していくことにします。

まず、これまでずっと疑問だった、感染者に対して行われているとされていた「積極的疫学調査」の状況に関する情報開示についてです。

=======田中の質問に対する市からの回答(4月9日(木))=======
■質問
1.積極的疫学調査の状況について
①1 例目(3 月1 日確認)及び2 例目(3 月6 日確認)及び3 例目(3 月7 日確認)の感染者について、3 月8 日以降の濃厚接触者の人数及びPCR検査の実施の有無、感染経路などの調査結果及び現在の状況を公表していない理由をお示しください。

②4 例目(3 月7 日確認)の感染者はお亡くなりになりましたが、濃厚接触者について、人数及びPCR検査の実施の有無、現在の状況を公表していない理由をお示しください。

③5 例目(3 月10 日確認)及び6 例目(3 月17 日確認)の感染者について、3 月19 日以降の濃厚接触者の人数及びPCR検査の実施の有無、感染経路などの調査結果及び現在の状況を公表していない理由をお示しください。
⇒4 月2 日にようやく一部情報が更新されましたが、濃厚接触者の人数及び検査の実施状況、感染経路の調査状況が公表できない理由をお示しください。

④7・8 例目(3 月24 日確認)の感染者について、第1 報以降の濃厚接触者の人数、感染経路などの調査結果及び現在の状況を公表していない理由をお示しください。
⇒4 月2 日に一部情報が更新されましたが、濃厚接触者の人数及び検査の実施状況、感染経路の調査状況が公表できない理由をお示しください。

■以上のまとめとして、積極的疫学調査の進捗状況等の情報を随時、もしくは定期的(概ね1 週間程度を想定)に更新し、公表すべきと考えますが、市の見解をお尋ねします。

■西宮市の回答
情報の公表につきましては、令和2年2月27日に厚労省から通知された「一類感染症が国内で発生した場合における情報の公表に係る基本方針」 に基づいて実施しております。ただし、クラスター案件等については、感染拡大防止のため必要であると判断した情報を公表することとしております。なお、公表にあたっては、プライバシーの保護に配慮し、個人の特定に繋がる情報については非公表としております。一方で、回復情報など社会不安を和らげる情報の発信も大事であると考えておりますので、個人の特定に繋がらないように配慮しながら一定程度まとめて公表していきます。

=======田中の質問に対する市からの回答(4月9日(木))=======

市の回答では、情報公開については、「令和2年2月27日に厚労省から通知された『一類感染症が国内で発生した場合における情報の公表に係る基本方針』 に基づいて実施しております。」とあります。

これには疑問があります。

公開すべき情報を精査する手間をかける時間がないため、この基本方針のなかで市にとって都合のいいところだけを拡大解釈していると思っています。

この「基本方針」の内容を確認してみたいと思います。

一類感染症が国内で発生した場合における情報の公表に係る基本方針

一類感染症が国内で発生した場合における情報の公表に係る基本方針
↑クリックするとPDFファイルが開きます。

===1.公表の目的について ===
 感染症のまん延を防止し、感染症による健康リスクが個人や社会に与える影響を最小限にするためには、感染症の発生状況等に関する情報を積極的に公表する必要がある。なお、当該情報の公表に当たっては、感染者等に対して不当な差別及び偏見が生じないように、個人情報の保護に留意しなければならない。
===ここまでが基本方針の1 ===

後半部分は重要ですが、拡大解釈しているといえます。前半の下線部分が公表の目的です。これまで私も、積極的な情報開示、市民と情報共有する目的について掲載してきました。
資料では医療機関名は、医療機関に配慮して公表しないことにはなっていますが、「医療機関での行動に基づき、感染拡大のリスクが生じ、不特定多数の者に迅速な注意喚起が必要な場合には、公表を行う場合もある。」となっています。

市民に正確な情報に基づいた行動をとってもらえるよう、これからも市に対して情報開示を求めていきたいと思います。

===2.公表する情報について===
 原則として、以下の情報を公表することとする(詳細は別添のとおり)。
(1)感染症に関する基本的な情報
感染症の種類によってその特徴が異なることから、病原体の潜伏期間や感染経路、主な感染源等、当該感染症に関する基本的な情報を提供する。
これらの情報を発信することにより、当該感染症をまん延させないための適切な行動等を個人がとれるようにする。

(2)感染源との接触歴に関わる情報
感染者の推定感染地域及び感染源との接触の有無等に関する情報を提供する。これらの情報を発信することにより、当該地域への渡航者に対する注意喚起に資すると考える。

(3)感染者の行動歴等の情報
感染者が他者に当該感染症を感染させる可能性がある時期の行動歴等の情報については、感染症のまん延防止のために必要な範囲で公表する必要がある。他方、他者に当該感染症を感染させる可能性がない時期の行動歴等については、感染症のまん延防止に資するものではないことから、公表する必要はない。
したがって、感染者が他者に当該感染症を感染させる可能性がある時期の行動歴等について、以下のとおり公表を行うこととする。なお、公表に当たっては、公表による社会的な影響についても十分に配慮し、誤った情報が広まることのないように丁寧な説明に努めることとする。

①感染者に接触した可能性のある者を把握できている場合(*)
公衆衛生上の対策に関する情報について公表することとする。
(*)検疫所や保健所において健康監視や健康観察対象者を把握できている場合

②感染者に接触した可能性のある者を把握できていない場合
当該感染症の感染経路(接触感染、飛沫感染又は空気感染等)等に鑑みて、感染者と接触した可能性のある者を把握するため及び感染症をまん延させないための適切な行動等を個人がとれるようにするために必要な情報を公表することとする。
また、その際には誤った情報が広まることのないように、感染者の症状、他者へ 感染させる可能性がある接触の有無等の正確な情報を発信することとする。
=====ここまでが基本方針2=====

 2-(1)については、徐々に国や専門家会議等によって情報が提供されつつあります。2-(2)についても、判明しているクラスターとのかかわりなど判明すれば市は公表していますが、大半がわかっていません。
そして、2-(3)についてが、十分とは言い難い状態になっていると考えています。現在の市から開示される情報だけをもって、「感染症をまん延させないための適切な行動等を個人がとれる」状態にはなっていないと感じているからです。

そして、私の質問の前半①~④の質問(感染経路等調査結果、現在の状況を公表していない理由)に対しても、市は具体的に回答していません。濃厚接触者の人数やその方々へのPCR検査の実施の有無、感染経路などの調査結果及び現在の状況を公表しても、個人を特定することにはなり得ません。

また、1例目の方から5例目の方が確認されてから、1ヶ月以上が経過しています。このうち、1名の方はお亡くなりになっています。そして現在、退院された方が6名と報告されていますから、1~3と5例目の方々は退院されたものと推察されます。
よって、これまでの感染者の状況について、
①入退院、勤務の状況などはどうなっているのか。
②退院したのであれば、いつごろ退院したのか。
③感染経路等の調査を終えたのか、もしくは調査中なのか。
④調査を終えたのであれば、不明も含めて、感染経路や濃厚接触者への感染はどうだったのか。
を最終報告する必要があると思っています。

そして、回答では、「回復情報など社会不安を和らげる情報の発信も大事」と認め、「一定程度まとめて公表していきます。」とありましたので、今後の情報開示を待ちたいと思います。

実際の市からの報告

私の質問に対する回答の後、感染者の発生について、以下のとおり報告が入りました。

=====32例目の報告(4月9日(木)17時30分)=====
(1)年 代 : 40歳代
(2)性 別 : 男性
(3)職 業 : 会社員
(4)居住地 : 西宮市内
(5)経過
 3月25日 咳
 3月31日 発熱38度
 4月3日  市内A医療機関受診
 4月4日  咳がひどくなる
 4月6日  市内A医療機関受診
 4月7日  市内B医療機関(帰国者・接触者外来) 受診、検体採取
 4月9日  PCR検査陽性確定
      市外C医療機関(帰国者・接触者外来) に入院
(6)その他
現在の症状:発熱、咳(現在は喀痰、息苦しさあり)
勤務状況:調査中
同居人:あり
渡航歴:なし

(追記)
4月15日に第2報が入りましたので、掲載します。

(6)その他
勤務状況:3月31日まで出勤
↑発症後1週間近く外出していたことになります。
濃厚接触者の特定については、4月15日現在、報告はありません。
(追記終わり)

=====ここまでが、32例目の報告=====

疑問だらけです。

①なぜ、発熱後4日間症状が続いても、いきなり帰国者接触者外来を受診させてもらえなかったのか。
②なぜ、最初の医療機関受診からPCR検査の実施までさらに6日間もかかっているのか。
この間に、重症化した可能性も否めませんし、医療機関の受入れ態勢が整っていなかった可能性もあります。

発症から検査を受けるまでにこんなにも長い間かかってしまう環境にあるのであれば、今はまだPCR検査を受けさせてもらっていないだけで、症状がすでに出てしまっている方も相当数いらっしゃる可能性があります。
また、発症してから2週間も放置されている間に、その方に対する積極的疫学調査がなされないわけですから、感染拡大が進む可能性も高まります。

積極的疫学調査を担う手が足りない可能性もあると思い、下記の質問もしておりました。

=======田中の質問に対する市からの回答(4月9日(木))=======

■質問
〇上記対応ができていない可能性として、人員が不足していることが考えられます。積極的疫学調査を実施している職種別の人数等調査体制を教えてください。
■市の質問
現在、積極的疫学調査を中心に実施しているのは保健師3名です。3月より他局より事務職の応援をお願いしています。今後も拡充する予定です。

=======田中の質問に対する市からの回答(4月9日(木))=======

保健師が3名の体制。。。
こうして考えてみると、あってはならないことですし、そうではないと信じたいですが、積極的疫学調査の手が回らなくなるからPCR検査を抑制することもあり得てしまいます。
患者対応をするための医療機関の体制強化もそうですが、感染拡大を防止するための保健所の迅速な体制強化も重要です。その辺も正確に回答して頂きたかったです。

この感染者は咳が出てから38度の発熱までに6日間もかかっています。つまり、この間の濃厚接触者は相当数いらっしゃる可能性があります。その濃厚接触者もすでに、発症している可能性すら否定できません。
ですので、その濃厚接触者の外出規制と検査も急がなくてはなりませんし、その先の濃厚接触者への連絡も急ぐべきです。

勤務先が市外なのか市内なのかによっても大きく対応が異なります。
勤務先までの移動手段は電車なのか徒歩なのか、自家用車なのかによっても対応が異なります。

そして、同居人もいらっしゃるとのことです。同居人が利用している施設や通っている学校などがあれば、すぐに連絡を入れて、対応してもらわなければなりません。

緊急事態宣言が発令されている今と、これまでの対応は明らかに変える必要があります。市にできること、やらなければならないことは、情報開示以外にもまだまだあります。

続報を待ちたいと思います。

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