西宮市議会総合計画研究会編集 – 基本構想(私案)

2008年10月

西宮市議会総合計画研究会編集
第4次西宮市総合計画
基本構想(私案)

平成20年10月
西宮市議会総合計画研究会

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持続可能な文教住宅都市
豊かな社会の実現を目指して

 本市は、昭和38年に文教住宅都市を宣言し、昭和46年に「文教住宅都市を基調とする個性的な都市」の建設を都市目標とした「総合計画」を策定して以来、一貫してこの都市目標を引き継いできました。本市ならではの良好な住宅地、誇るべき文化・教育環境、水と緑と青空に恵まれた自然環境を活かした「文教住宅都市」を基調とするまちづくりの方向性は、今後も継承・発展させていくべきものです。一方、阪神淡路大震災によって、私たちは住みよい文教住宅都市は何よりも安全で安心できる都市でなければならないという貴い教訓を得ました。この教訓を活かし、災害に強いまちづくりを早急に進めなければなりません。
 一方、年金や医療を初めとする社会保障制度、逼迫する地方財政、少子高齢化社会の到来、地球温暖化、エネルギー問題、安全な食料や水の確保など、多くの不安が社会を覆っています。地方分権の時代にあって、市町村もこれら不安を払拭し、よりよい未来を築いていく意志を持ち、政策に反映させていかなければなりません。
 中核市に移行した本市には、持続可能な文教住宅都市を実現するため、これまで以上に主体的な行政運営が求められています。「第4次総合計画」は前総合計画によるまちづくりを踏まえ、社会状況の変動、物の豊かさより心の豊かさを求める市民意識の変化にも対応した、今後のまちづくりの根本的かつ普遍的な指針として、豊かな社会の実現をめざして、市民との参画と協働により策定するものです。

目次

第1章 総合計画の役割
 1 総合計画とは何か ~その意味と変遷
 2 総合計画はどう活かされるのか ~役割と運用、目標年次

第2章 策定の背景
 1 まちづくりの基本理念 ~市民憲章と都市宣言
 2 前総合計画によるまちづくりと震災の教訓
 3 市民の意識
 4 時代の潮流
 5 人口と財政の推計

第3章 本市が抱える主な課題

第4章 まちづくりにおける基本目標

第5章 施策の大綱

第6章 総合計画の実現に向けて
 1 参画と協働の社会の実現
 2 行政マネジメントの推進

第1章 総合計画の役割

1. 総合計画とは何か ~ その意味と変遷

 地方自治法第2条4項には、「市町村は、その事務を処理するにあたっては、議会の議決を経てその地域における総合的かつ計画的な行政の運営を図るための基本構想を定め、これに即して行なうようにしなければならない。」と定められています。
 本市においては昭和46年に制定した「西宮市総合計画」以来、一貫して文教住宅都市を基調とした個性的な都市の実現を目指した取り組みを進めてきました。総合計画はそうした取り組みを具体的に進める根拠となってきたものです。

■総合計画の変遷


計画名 年度 都市目標 サブテーマ 計画の柱
西宮市
 総合計画
s48~s60 文教住宅都市を
基調とする
個性的な都市づくり
緑としあわせの
まちづくりへ
1)市民生活の向上
2)教育文化の向上
3)産業活動の進行
4)都市環境の整備
~改訂総合計画 s54~s60
西宮市
 新総合計画
s61~h07 活力と
うるおいのある
文教住宅都市を
めざして
1)計画的な市街地の整備
2)生活環境の向上
3)生涯福祉の実現
4)教育的社会の実現
5)市民文化の育成
6)都市経済の活性化
~基本構想延長 h07~h10
~震災復興計画 h07~h10
第3次
 西宮市
  総合計画
h11~h20 活力と
希望に満ちた
西宮をめざして
1)共にいき、共につくるまち
2)安心して暮らせる、心かようまち
3)人と文化をはぐくむ生涯学習のまち
4)にぎわいと活力のあるまち
5)環境に優しい、うるおいのあるまち
6)安全でゆとりのある快適なまち

2. 総合計画はどう活かされるのか ~役割と運用、目標年次

 総合計画とは、本市の長期的なまちづくりの基本的方向と市政の指針を示したものであり、期間中に策定される他の全ての計画の基本となるものです。同時に市民・事業者の諸活動を望ましい方向へと導くものであり、ここに掲げる方向は、国や県が策定する上位・広域計画とも整合性が保たれることが必要です。

総合計画の役割

 総合計画は、基本構想、基本計画、実施計画によって構成されます。

1)基本構想:本市の目指すべきまちのすがたや目標などを明らかにし、基本的な政策の方向を示したものです。期間は平成21年度からの10年とし、目標年次は平成30年です。

2)基本計画:基本構想に定めるまちづくりの目標と方向に基づいて、それを実現するための計画を定めるものです。期間は平成21年度からの10年ですが、中間年度にあたる平成25年度には、各施策の進捗状況を検証し、社会情勢の変化や財政状況をふまえて、平成26年度からの後期5年分の基本計画を改めて策定します。

3)実施計画:基本計画を推進するための具体的な実施方法を定め、達成状況を点検できるようにした実効性の高い計画です。財政状況や施策の進捗状況、市長のマニフェストなどをふまえ、向こう3か年の計画として毎年策定されます。

■総合計画の計画年度image

第2章 策定の背景

1. まちづくりの基本理念 ~ 市民憲章と都市宣言

 都市はその特色や住民の意志に基づき、憲章や都市宣言を定めています。これは時代が変わっても、永きにわたってその都市のまちづくりにおける基本理念として尊重されるべきものです。
 本市は昭和38年におこなった文教住宅都市宣言をはじめとして、平和非核都市宣言・環境学習都市宣言・安全都市宣言の4つの宣言をおこなっています。市民のあるべき姿を定めた西宮市民憲章と、これら4つの都市宣言は本市のまちづくりを進めるうえで、大きな役割を果たしてきました。

2. 前総合計画によるまちづくりと震災の教訓

1)前総合計画によるまちづくり

 前総合計画は、「文教住宅都市を基調とする個性的な都市の建設」という都市目標を継承し、快適で利便性の高いまちづくりを進めるとともに震災復興計画を引き継ぎ、「活力と希望に満ちた西宮」を実現することとしていました。
 これまで、文教住宅都市としての本市の魅力を一層高めるための取り組みを進めてきましたが、前総合計画の想定を上回る厳しい財政状況や予測を超える人口増など、本市を取りまく状況に大きな変化があり、厳しい行財政運営を強いられました。
今後とも全体としてはゆるやかな人口増が続くことが予想されますが、一部地域における人口の急増など、人口バランスの崩れも予測されており、こうした動向を充分踏まえてまちづくりを進めていかなければなりません。
 さらに、市民生活における安全・安心の確保、教育・学習環境の充実、環境学習の推進、緑の創出や美しいまちなみの形成など、文教住宅都市としての特性に磨きをかける取り組みを、厳しい財政状況の中で効率的に進めていくことが求められています。

2)震災の教訓

 平成7年に本市を襲った阪神・淡路大震災は、長年にわたって築き上げてきたすばらしい西宮のまちを一瞬にして破壊し、市民生活は大きな困難を余儀なくされ、財政的にも大きな打撃を受けました。
 震災により、私たちは、「住みよい文教住宅都市は、何よりも安全で安心できる都市でなければならない」という貴い教訓を得ることになりました。これからのまちづくりにあたっては、この教訓を生かし、人的災害の未然防止はもとより、自然災害に対しても「減災」という考え方に基づいて被害を最小限にとどめるとともに、被害を受けても都市機能が維持できる災害に強いまちづくりを進めることが必要です。
 また、震災で重要性が再認識されるようになった「互いに助け合う基本となる地域コミュニティ」の再構築を図り、人々が心豊かに安心して暮らせるまちづくりを進めることが求められています。

※減災とは:阪神・淡路大震災後に生まれた概念で、災害時において発生し得る被害を最小化するための取り組みをおこなうこと。防災が被害を出さない取り組みであるのに対して、減災とはあらかじめ被害の発生を想定した上で、その被害を低減させていこうとするものです。

3. 市民の意識

 本計画の策定にあたっては、多くの意見を計画に反映するため、それぞれ5,000名の市民を対象に、平成18年度に市民満足度調査(有効回収数2,720、有効回収率54.4%)、平成19年度に市民アンケート(有効回収数2,825、有効回収率56.5%)をおこないました。
 これらの調査の結果、明らかにされた市民の意識を第4次総合計画に反映しております。

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4. 時代の潮流

●環境に配慮した循環型社会への移行

 大量生産・大量消費型の経済活動や生活様式に起因する、地球温暖化、オゾン層の破壊、熱帯雨林の減少、酸性雨など、地球規模での環境問題が顕在化しています。また、日常生活から生じる廃棄物なども、地球環境問題に関連した重要で身近な問題といえます。こうした状況をふまえ、化石燃料依存体質からの脱却や循環型社会の実現など、持続可能な発展への転換が求められています。

●安全意識の高まり

 大地震の頻発や台風の集中上陸などの自然災害、感染症の拡大、情報セキュリティ問題の顕在化、食の安全、国内治安の問題、世界的なテロの増加など、安全・安心な日常生活を脅かす要素が今までになく増えています。こうした状況をふまえ、これまであたりまえのものと思われてきた安全で安心な生活に対する市民の期待は一層強くなっています。

●少子高齢化の進行

 わが国は、平均寿命の伸長による高齢者の増加によって、平成30年には総人口の28.6%が高齢者という超高齢社会を迎えると予測されています。特に、「団塊の世代」といわれる昭和22~24年生まれの世代が65歳に到達する平成24~26年には、わが国の65歳以上の高齢者が年に約100万人ずつ増加すると見込まれています。また、出生率の低下による少子化の傾向が続いており、合計特殊出生率は平成17年には1.26人と、世界で最も少子化の進んだ国の一つとなっています。一方、総人口は、既に減少局面に入り、平成17年をピークに今後徐々に減少していくと予測されています。
 本市においては、計画期間中、総人口は緩やかに増加しますが、少子化の流れは加速が予測されます。高齢者人口は平成30年には全人口の22.3%になる見込みです。

●地方分権の進展と国・県の動向

 地方分権が進展し、地方公共団体の政策の自己決定権が拡大することによって、これまでにも増して地方自治体が自らの権限と責任のもとで主体性や独自性を発揮し、地域の実情やニーズを踏まえた魅力あるまちづくりを進めることが可能となっています。しかし、そのための財源を捻出するために、国は地方交付税の改革、国庫補助負担金の削減、税源移譲の三位一体改革をおこないましたが、国の財政状況が厳しいこともあり、充分な財源が確保されているとはいえません。一方、市民意識の変化に伴い、今後、市民ニーズはますます多様化、増大することが予測されます。
 また、危機的な財政状況に陥っている兵庫県は、「新行財政構造改革推進方策(新行革プラン)」(改革期間:平成20~30年度)を策定して行財政の改善に取り組んでおり、本市への影響も少なからずあるものと予想されます。

●その他の社会構造の変化

これまでにあげた課題以外にも、ICT(情報通信技術)の飛躍的な発達による高度情報ネットワーク社会の到来や、価値観の多様化、社会経済の成熟化、格差の拡大などによって、社会構造は急激に変化しつつあります。これらの影響により、行政サービスに対する期待も、これまでのものから質・量ともに変化してくると考えられます。

5. 人口と財政の推計

1)人口の現状と見通し

  本市の人口は、平成12年(2000年)の国勢調査では44万人、平成17年(2005年)の国勢調査では47万人まで増加しています。本計画の目標年度である平成30年度(2018年度)における本市の人口は、概ね509,000人と予測されています。急激な人口増加、とりわけ10歳までの幼児・児童や子育て世代の増加等、年齢構成の変化にともなう課題が顕著なものとなってきています。

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■人口分布(西宮市と全国の比較)

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<西宮の年齢構成の特徴>
 全国的な傾向に較べ、30代~40代前半の子育て世代と、10才以下の子供の人口が多いのが特徴です。
※全国:総務省統計局   平成20年4月1日現在推計人口
西宮:西宮市情報公開課 平成20年6月30日現在推計人口

2)財政の現状と見通し

 平成19年度決算の市税収入は、前年度と比較して21億円増の総額829億円となりました。震災復興に伴う多額の市債の償還などから、本市の財政状況は、赤字再建団体転落も危惧されるほどに悪化しましたが、近年はやや回復の兆候が見られるようになっております。
 しかし、西宮市の将来負担額※1は、平成19年度決算では約3,189億円になっています。また、震災前の平成2年には236億円あった財政基金等基金残高も平成22年度末にゼロになり、平成22年・23年には実質収支がマイナスになることが予測されるなど、未だに財政難を脱しているとは言い難い状況にあります。経常収支比率※2も100%前後で推移しており、財政の硬直化が改善されていないのは明らかです。
 今後も、人口増加や高齢化の進行による行政需要の大幅な増大や、社会基盤の更新や維持・管理に多額の事業費が見込まれることなどからも、本計画の前期基本計画の実施期間である平成25年度までは依然として厳しい行財政運営が予想され、引き続き財政健全化への取り組みが必要です。第4次総合計画における施策を実施するにあたっての財源を捻出するためには、堅実な財政運営のみならず、施策の選択と集中が求められます。

※1 将来負担額とは:財政健全化法に基づき計算されたもので、一般会計並びに特別会計の市債残高と債務負担行為残高の合計、西宮市中央病院・上水道・工業用水道、下水道など各企業会計の市からの繰入見込額、将来にわたって負担すべき退職手当など、将来市の一般会計等が負担することが決定している費用を合算したものです。
※2:経常収支比率とは:税などの一般財源を、人件費や扶助費や公債費など経常的に支出する経費(義務的経費)にどれくらい充当しているかを示す比率です。この比率が高くなる程、公共施設の整備など投資的な経費に充当する財源の余裕が少なくなり、財政運営が厳しくなります。都市にあっては70~80%にあるのが望ましく、80%を超えると財政構造の弾力性が失われつつあるといわれています。西宮市は相当財政が硬直化しているとえます。

平成25年度までの財政見通し

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第3章 本市が抱える主な課題

■教育に対する期待の高まり

 文教住宅都市のイメージに添った教育や生涯学習のあり方を、あらためて見つめなおすと共に、目標と成果を具体化することが、市民が求める高度化した教育的ニーズに応えていくための基本的な課題となっています。

●教育の質の向上への期待

 学ぶ意欲の低下や学力格差、いじめや不登校、規範意識の低下、生活習慣の乱れといった様々な問題がある中で、子どもたち一人ひとりが、時代や社会の変化に対応して、夢を持ってたくましく生きることができる力を育成することが求められています。また、小学校での英語教育が義務化され、小・中学校において学力テストが導入されるなど、教育を取り巻く環境が大きく変化する中で、本市においては、引き続き、いわゆる「読み・書き・そろばん」と言われる基礎学力を養成することを一層徹底・充実していくと共に、知・徳・体をバランスよく育成できる教育を提供することが課題といえます。
 また、学校評議員制度が全小学校で立ち上がり、学校での教育活動を客観的に示すための学校評価も、すべての小・中学校において実施されています。これからの学校運営は、効率的に学校を経営しながら、地域や保護者等と連携するための一層の努力が必要です。よって、これらの制度を有効に活用して、各学校や教育に関する情報の共有を進め、教育の質に対する期待に応えていくこと、並びに、家庭における教育力を向上させていくことが大きな課題となっています。
 次に、本市の中学校では、平成21年度より公立高等学校普通科の入試において導入された「複数志願制度」の趣旨に沿った進路指導を展開していくとともに、県立も含めた公立の高等学校の地理的な偏在の問題を制度的に解消し、同時に、高等学校のより一層の特色化を進めることが喫緊の課題といえます。
 最後に、中核市への移行に伴って、教員の研修権が県から移管されたことにより、文教住宅都市のイメージに沿った教育を提供できる教員を養成するための研修システムを開発し、研修を実施していくことも課題となっています。

●施設の対応

 震災以降の10年間で、集合住宅が急増し、地域間の人口バランスが崩れたことにより、児童急増地域での教室不足が深刻な状態となっています。それらに対する迅速な対応と人口予測の精度を向上させるなど、より計画的な施設管理の重要性が高まっています。また、国が定めた「建築物の耐震診断及び耐震改修の促進を図るための基本方針」に基づき、平成27年までに学校施設の耐震化工事を終了するために、多額の費用を要することが大きな課題となっています。老朽化が進んだ校舎に対する長寿命化も含めて、計画的かつ効率的な施設の維持管理体制の構築が課題といえます。

●特別支援教育

 平成19年4月より、障害のある児童・生徒に対する教育は、これまでの障害児教育から、特別支援教育への転換が図られました。今後は、福祉施策の拡充とともに、一人ひとりの教育的ニーズを的確に把握し、きめ細かな教育的支援をおこなうための体制や取り組みの展開が課題です。

■周辺環境・景観との調和

●景観行政団体

 平成20年4月に中核市となり、景観行政団体となったことから、これまでの開発指導に加えて、周辺環境・景観と調和したまちづくりが課題となっています。そのためには、文教住宅都市にふさわしい景観の明確な基準作りが喫緊の課題であり、その基準に基づいて、一貫した誘導と指導を進めていく必要があります。これらは、個人の権利を大きく制限する取り組みであり、主観的な要素も大きいことから、公共の福祉に対する市民の理解を得ながら進めることが課題となります。

●集合住宅の激増

 本市においては、産業構造の変化をはじめとした種々の社会環境の変化に伴い、今後も、集合住宅が増加していくことが予想されます。よって、社会基盤の整備が今後も重要な課題であり、前述の景観誘導も含めて適切な開発指導が展開されなければなりません。そのような中で、地域の特性に応じた都市空間整備を一層進めるためにも、地区計画の策定に対する地域への支援を強化することが重要です。また、地区計画に込められた地域住民の意向が反映されない開発が多々見られるとの指摘もあることから、各地区計画の策定趣旨に沿った開発が進められるよう指導すること及び、地区計画間の整合を計ることが課題となります。
 また、今後は、既存の集合住宅の老朽化対策が必要となることが予測されるため、総合的な支援制度の整備も課題となってきます。

■安全・安心に対するニーズの高まり

●自然災害に対する減災の取り組み

 環境問題との関係も示唆されている都市型集中豪雨が増加し、南海・東南海地震をはじめとした大規模地震の発生確率も高まっているといわれる等、風水害や地震・津波対策の必要性が一層高まっています。防災に関するハード面の整備には一定の限界もあることから、阪神大震災の教訓を再認識し、防災意識を高めるための取り組みや地域コミュニティの再構築等ソフト面の取り組みで補完するなど、自然災害に対する「減災」の取り組みが課題となっています。

●防犯に対する期待

 ひったくりや空き巣などの犯罪発生件数は、地域団体の取り組みをはじめとした不断の努力によって、減少傾向を示しているものの、未だ高水準にあります。また、全国的に多発している凶悪犯罪や子供に対する犯罪が頻繁に報道されていることに起因して、市民の防犯意識が高まっています。

●その他の安全に対する取り組み

 今後も、子育て世帯の増加と急激な高齢化が同時に進行することが見込まれる中で、交通弱者が増加することは明白であり、道路整備や駐輪場整備などに関して、歩行者、特に交通弱者に一層配慮された交通安全対策が課題となっています。また、救急救命体制の維持・向上や有事も含めた危機管理体制の実効性の向上も重要な課題の一つです。

■環境に配慮した循環型社会への移行

 本市は、平成15
年に全国に先駆けて環境学習都市宣言をおこない、その宣言に基づいた取り組みを進めてきたものの、平成17年に策定された新環境計画に遅れが見られ始めています。今後とも、市民、事業者、市それぞれが環境について深い認識を持ち、自然環境に対する意識を高める取り組みを地道に進める必要があります。同時に、行政は、その理念の模範を示すためにも、急激に進む循環型社会への移行に率先して対応し、ゴミの減量化やリサイクル事業の体系的な構築など、身近な環境から地球規模の環境保全まで、自然環境の保全と再生を基調とする持続可能なまちづくりを進めていくことが重要な課題となっています。

■福祉需要の増大

 福祉サービスを持続的に提供するためには、サービス量の拡大から質の向上への転換は避けて通れません。そのような中で、あらゆる世代の市民が、心豊かに自立して生活を送るため、地域福祉の仕組みを具体化し、実現していくことが課題となっています。

●子育て世代の増加

 核家族化を背景として、子育てに対する孤独・不安・負担を感じる保護者が多くなっていると言われています。今後は、待機児童の解消をはじめとした施設保育の充実に加えて、在宅保育に対しての支援も進めるなど、全ての子育て世帯が安心して子育てができる支援・仕組みづくりを強化する必要があります。

●高齢化の進行

 高齢者が生き生きと暮らすことができるために、介護予防や社会参加の促進などの取り組みの実効性が課題となっています。また、施設介護サービスや適切な医療サービスを持続的に提供していくことも必要となってきます。

●自立支援法の成立

 障害者自立支援法の精神に基づき、持続可能な生活支援の充実や就労支援の実効性の向上など自立に向けた思いやりのある取り組みが求められています。

●景気の低迷

 高度経済成長の終焉と高齢化の進展もあいまって、生活保護世帯が増加傾向を示しています。全ての人が幸せに自立した生活を送れるよう、生活保護世帯の実態把握を行いながら適切な就労支援を進め、社会復帰に向けた取り組みを強化する必要があります。

■にぎわいの創造と均衡の取れた産業の発展

●商工業の安定した営み

 本市は近年大型商業施設の開設が相次ぎ、商店街や小規模店舗の著しい衰退が見られています。購買行動は消費者が選択するとは言え、市内の商店などが減少していくことはまちのにぎわいの喪失につながります。また中小企業を中心とした工業も、長引く経済の低迷によって衰退傾向が見られます。こうした現状が市内事業者、従業者の生活を圧迫し、勤労福祉の減退につながることのないよう、市内商工業者が安定して事業を継続できるための環境整備が課題となっています。

●新しい価値を創造する農業の発展

 食の安全や食料自給率の低さ、地産地消などに注目が集まる昨今、農業にもこれまでとは違った取り組みが必要とされています。本市でも伝統的に作付けされてきた農産物を守るとともに、環境保護、市民農園への技術供与、環境学習や食育など、農業の新しい役割や価値に着目した発展を図っていくことが求められています。

●市民活動の更なる推進

 本市はさまざまな場面で市民活動が展開されてはおりますが、地域コミュニティの高齢化や参加者の減少など、都市部に特徴的な課題を有しています。これら地域コミュニティを含めた市民活動をさらに支援し、年齢、性別を問わず参加できる場を今後さらに増加させていくことが求められています。

第4章 まちづくりにおける基本目標と7つの基本政策

1. まちづくりにおける基本目標

持続可能な文教住宅都市 西宮 ~豊かな社会の実現を目指して

 本市は、美しい自然環境や交通の利便性があいまって、豊かな文教住宅都市としての優れた特性を有しており、このような特性を活かしたまちづくりを進めた結果、阪神間の中核都市として着実な発展を遂げてきました。
 今、市民は、物質的な豊かさより心の豊かさを、そして、生活の質の向上を求めています。環境、景観、文化などが醸し出すまちの雰囲気、都市の品格といったものが、まちづくりの重要な目標となっています。
 本市がこれまで進めてきた「文教住宅都市を基調とする個性的な都市」を都市目標とするまちづくりは、各種の市民意識調査においても市民の広範な支持と共感を得ています。しかし一方で、近年のまちづくりの方向性については、本市の良さを静的に保全しているだけで、積極性に乏しく、目指すべき方向がわかりにくくなっているという意見もあります。これからは、中核市として主体的に魅力あるまちを目指すために、はっきりとまちづくりの方向を示すことが重要になっています。
このため、私たちは、本市の有する特性を踏まえて、「豊かな社会の実現を目指し、持続可能な文教住宅都市」を追求することを基本目標と定めます。そして、地域住民の手で、本市が長年培ってきた文教住宅都市としての特性により一層磨きをかけ、多様な魅力あふれるまち、誰もが住んでみたい、住み続けたいまちとして、この西宮を次の世代に引き継いでいく努力をします。

 前章であげた課題を克服しながら、上述の基本目標の実現を図るため、7つの基本政策を定めて、取り組みを進めていきます。

2. 7つの基本政策

■夢はぐくむ学びのまち

 知・徳・体をバランスよく育成する質の高い学びを提供することによって、西宮に誇りを持ち、夢をはぐくむ学びのまちづくりを進めます。

■豊かな自然と都市環境に調和した景観の美しいまち

 恵まれた自然環境とそれぞれの地域が持つ特性を活かしつつ、豊かな市民生活が営まれるよう、計画的な市街地の整備を進め、ゆとりある快適な都市空間を持つまちづくりを進めます。

■安心して暮らせる安全なまち

 災害・犯罪をはじめとしたあらゆる危険から市民の生命・財産を守り、安心して暮らせるまちづくりを進めます。

■自然環境に対する意識の高いまち

 環境に与える負荷の少ない循環型社会への転換を目指し、水と緑豊かな美しいまちの中で、環境学習を通じて全ての活動が環境や生態系に配慮して営まれる、持続可能なまちづくりを進めます。

■すべての人にやさしいまち

 子どもから高齢者、障害を持つ人などすべての市民が、生涯にわたって安心して暮らせるよう、福祉・医療・子育て施策などを展開し、地域福祉活動の一層の推進を図り、心のかよった福祉のまちづくりを進めます。

vにぎわいと活気のあるまち

 地域資源を活かして、まちの活性化や多様化する市民ニーズへの対応に努めると共に、産業の発展や大学との連携を推進し、文教住宅都市に調和したにぎわいと活気のあるまちづくりを進めます。

■日本と世界に貢献するまち

 本市には青春の象徴・甲子園球場があり、まさに日本中の青少年を応援するまちです。また、震災の際には温かい援助を多方面から受けた経験もあります。これらをふまえて、本市がこれまで以上に日本と世界へ貢献するまちづくりを進めます。

第5章 施策の大綱

 前章で上げた基本目標を達成し、本市が抱える主な課題を克服するため、本市が取り組むべき政策を実現するための施策を政策ごとにくくりました。これらの施策は、社会構造の変化に適切に対応していくため、組織横断的に推進されるものです。

■夢はぐくむ学びのまちを実現するために 

●家庭教育の支援と青少年の健全育成
●学校教育の充実
●信頼される学校づくり
●計画的・効率的な学校施設運営
●生涯学習の支援
●公民館・図書館機能の充実
●スポーツ・レクリエーション活動の推進

■豊かな自然と都市環境に調和した景観の美しいまちを実現するために

●快適な生活環境の確保
●美しい都市景観の形成
●魅力的な市街地の形成
●良好な住宅・住環境の整備
●緑の保全と創造
●親水空間の保全と再生・創造

■安心して暮らせる安全なまちを実現するために

●災害・危機に強いまちづくり
●消防・救急救助体制の充実
●防犯対策の推進
●消費生活の安定と向上
●下水道・河川の整備
●水の安定供給
●道路の整備

■自然環境に対する意識の高いまちを実現するために

●環境学習都市の推進
●資源循環型社会の形成

■すべての人にやさしいまちを実現するために

●地域福祉の推進
●子育て支援の充実
●高齢者福祉の充実
●障害のある人の福祉の充実
●生活自立の援助
●健康の増進と公衆衛生の向上
●医療サービスの充実
●医療保険・医療費助成・年金制度の安定
●公共交通の利便性向上
●人権問題の解決
●男女共同参画社会の実現

■にぎわいと活気のあるまちを創造するために

●産業の振興
●都市型観光の振興
●大学との連携交流
●勤労者福祉の向上
●都市農業の展開
●市民活動の支援
●芸術・文化の振興

■日本と世界に貢献するまちをつくるために

●甲子園を活用した青少年応援事業の推進
●多文化共生社会の構築と国際貢献活動の推進
●非核平和施策の推進

<課題抽出の背景から、基本目標、施策への展開イメージ図>

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第6章 総合計画の実現に向けて

 地方分権時代においては、それぞれの地方自治体が住民の意思を反映し、地域の実情に応じたまちづくりを進めることが可能になります。そのためには、これまで以上に市民との連携と協力を進めることが重要です。また、市民との連携と協力を効果的に進めるためには、市の責任領域の明確化、市民と市との適切な役割分担も欠かせません。一方で、社会全体が大きな転換期を迎えている中、行政には、社会経済状況の変化に対応するための大きな変革が求められています。これまでの行政運営の仕組みそのものを改革するとともに、施策・事業の展開にあたっては、選択と集中による戦略的な取り組みを進めることによって、行政組織を、市民ニーズに柔軟に対応できる効率的なものに改めなければなりません。

1. 参画と協働の社会の実現

1)西宮市における参画と協働の考え方と目指す方向

 これからの市民と市の関係は、「個人の自主性・自立性を尊重しながら、個人で解決できないことは家庭で、家庭で解決できないことは地域で、地域での解決が困難であったり、解決できないことは市が補完する」という補完性原理に基づいた考え方が基本となります。市民と市がお互いの信頼関係のもとにまちづくりを進めていくに際しては、それぞれが有する情報を共有することが重要です。また、本市が目指すまちづくりにおいて重要なことは、市民自らが「まちづくりの担い手である」という意識で行動できるような環境や仕組みが整っていることだと思われます。
 今後は、市としての責務を果たしつつ、幸せな市民生活の実現のための環境・仕組みづくりをおこなう市と、まちづくりの主役である市民という両者が、目指すべき都市目標を共有し、それぞれの役割分担のもと、実現に取り組む「参画と協働の社会」を目指していきます。

2)市民と市の役割分担

①市民の役割
 市民は、参画と協働によるまちづくりに自主的かつ積極的に関わるとともに、地域の身近な課題についても自らのこととして考え、力を合わせて、問題の解決に努めなければなりません。
また事業者には、地域を構成する一員として、社会貢献することが期待されます。

②市の役割
 市は、市民の多様なニーズを考慮して市政を運営するため、参画と協働の機会の確保に努めなければなりません。
また市民が、まちづくりのため、個々の能力を十分発揮して取り組むことができるよう、環境・仕組みづくりを進めます。

2. 行政マネジメントの推進

 社会経済状況の大幅な変動、社会の成熟化に伴う価値観の変化・多様化に起因する行政に対する市民ニーズの増加など、行財政運営を取り巻く環境は厳しさを増しています。こうした状況の中、行政が今後もすべての市民ニーズを同時に充足することは困難であり、限られた経営資源を効率よく有効に活用し、最小の費用で最大の効果を生み出す行政運営の改革を進めなければなりません。そこで、施策・事業の展開にあたっては選択と集中による戦略的な取り組みを進めます。

1)行政経営を進めるための仕組みづくり

 行政評価システムを活用した事業の立案から評価に至るまでの過程(マネジメントサイクル)の構築、目指すべき目標を実現するための組織改革や定員管理、一部の予算編成等の行政内部の権限委譲等を通じ、市民満足度の高い、効率的で柔軟な行政マネジメントシステムの確立に取り組みます。

2)選択と集中による戦略的な取り組み

 行政評価を中核とした行政マネジメントシステムを確立し、施策の優先度付けや資源の効率配分、事業の取捨選択などの戦略的な取り組みを進めます。

西宮市議会総合計画研究会 参加者

今村岳司
大石伸雄
大川原成彦
片岡保夫
上谷幸彦
木村嘉三郎
草加智清
栗山雅史
坂上明
篠原正寛
澁谷祐介
白井啓一
田中正剛
田村ひろみ
中川經夫
町田博喜
三原憲二
森池とよたけ
山口英治
山田ますと
八木米太朗