特殊詐欺対策の効果検証と改善

2021年7月20日[カテゴリ:コラム, 防犯対策

 前回のコラムの続きとなります。
 
 昨年3月のコラム(←クリックすると)で掲載しましたが、新型コロナウイルス感染症の拡大により様々な活動が制約を受け、高齢者の外出機会も減少して自宅に滞在する時間が大幅に増えることが想定され、特殊詐欺被害の増加を懸念していました。

 また、これまでの西宮市の特殊詐欺対策は消費者教育、啓発活動が中心でしたので、活動ができない状況では高齢者に情報が行き届かないことから、対策を強化する必要性があると考えていました。

 そこで、新型コロナウイルス感染症の対応が長期化することも念頭に置き、昨年度の民生常任委員会の施策研究テーマの一つに、「防犯対策(特殊詐欺対策)について」を取り上げて集中的に調査をし、講じるべき対策を市に対して提言することとしました。
 
 感染症拡大防止の観点から、西宮市議会では管外視察を実施しないことが決定されていましたので、WEB会議によって他市での特殊詐欺対策の取組みについて調査し、管内視察の代替として、西宮警察署及び甲子園警察署にもご協力頂いて勉強会を開催することで現状と課題について確認しました。

 そして、各委員による市に対する政策提言を添えて、令和3年5月18日に報告書を提出しました。 
 
 以前のコラム(←クリックすると該当するコラムが開きます。)等でも掲載した通り、市は全く対策を講じなかったわけではないのですが、下の表のとおり、市内での被害は大幅に増加してしまいました。

 被害に遭われました方には、心からお見舞い申し上げます。

 政策や事務事業は「結果」が全てです。被害者の精神的なダメージを思うと、被害ゼロを目指して、現在の取組みを見直す必要があることは明白です。

 にもかかわらず、西宮市は、様々なメディアで連日報じられて市民にも伝わっているはずの「緊急事態宣言発令中」とか「年末年始感染防止」と大きく書かれたポスターが作成され自治会の掲示板等に掲示されてきたにもかかわらず、メディア等で連日取り上げられることのなかった「特殊詐欺多発!」「高齢者の方々は特にご注意ください!」と書かれたようなポスターが掲示されることは未だにありません。

 以下、報告書を通じて、私が市に対して提言したことを掲載致します。

施策研究テーマ報告書

1.特殊詐欺対策の強化について
ア)啓発を強化する方法に関する意見・提言

提言①
【市が特殊詐欺に関する情報を収集するための専用窓口を設置し、窓口の活用を通じて意識の向上を図る】

 特殊詐欺は身近に発生しており、残念なことではあるが、誰もが被害に遭う可能性があることを特に高齢者には意識してもらう必要があり、金銭が関係するやり取りについては常に詐欺を意識できるような取組みが必要な状況にあると考える。

 そして、警察や消費生活センターへの連絡は、被害に遭ってからの連絡が基本であり、現在兵庫県が実施している「ひょうご地域安全SOSキャッチ電話相談(078-341-1324)」についても認知度が高いとは言えず、市との連携が十分に図れているとは言い難い。

 そこで、市が特殊詐欺情報専用窓口を設置し、知らない人からの電話も含めて不審な電話がかかってきたらすぐにその専用窓口に電話等で情報を寄せて頂くように啓発することを提言する。

 そうすることで、常に特殊詐欺を意識することができるようになることが期待できると同時に、自分が提供した情報によって他人の被害発生を食い止め、自身の行動が世の役に立つことが実感されればさらに協力は得やすくなり、かつ全ての住民が少しずつ協力することで、結果的に自身の身も守れる環境を作りだすことができるという運動にもつながるものと考える。

 また、情報が早期に集まることで新たな手口の把握も可能となり、警察と連携して早期の対策を講じることができるようになることも期待される。

 「自分は大丈夫」と思っていても、いざとなったら冷静な判断がしにくいのが、特殊詐欺の特徴と言えます。「いつもと違う電話があれば、まずは市の専用窓口に電話。」という行動を伴う習慣が必要だと考えました。

提言②
【民生委員の高齢者訪問の際に特殊詐欺対策のチラシを配付して頂く】

 上記の専用窓口と比較すると情報伝達の迅速性に欠けるが、民生委員の方々が高齢者を訪問する際に特殊詐欺情報を記したチラシを配布することで意識を高めてもらうとともに、チラシ配布時に不審な電話がかかってきた等の情報を得ることができれば、健康福祉局を通じて地域防犯課が情報を把握することも可能になると考える。
 そこで、高齢者訪問の際にチラシを配布してもらうとともに、情報収集の協力を仰ぐことを提言する。

イ)特殊詐欺対策電話機等機器の購入補助に関する意見

提言
【防犯対策電話録音機等の機器購入補助の実施】

 他の自治体の状況及び現在出回っている機器の金額を鑑み、補助割合は半額、上限は1万円とすることが妥当であると考える。65歳以上の高齢者がいる世帯が購入したものを対象とすれば、1 回限りの助成となることから、これまで毎年実施してきた高齢者交通費助成の予算を勘案すると実現可能な規模である。
 また、購入先を市内の店舗に限定することで市内の経済効果も期待されるようであれば、補助の支給対象を市内に本店のある店舗で購入した電話機に限定することも検討するべきと考える。

 購入費補助を実施するためには「新たに多額の予算が必要」という理由で実施されないことが予想されますが、私はそうは思っていません。

 現在、高齢者福祉や高齢者交通費助成を健康福祉局が、特殊詐欺対策を産業文化局、防犯対策を市民局が担当しています。そして、今年度から、①健康福祉局の事業である高齢者交通費助成金(70歳以上の方を対象に5000円分の利用券を給付)の利用の8割を占めていた鉄道に使えなくなったことや②市民局の事業であった防犯カメラの設置事業が再開されないことを考えると、上記の取組みは予算面でもハードルは高くないと考えています。
 
ウ)市民に対して迅速に情報提供するための体制や仕組みに関する意見・提言

提言①
【特殊詐欺等が多発している時期に多発警報を発出し、防災スピーカーや緊急告知ラジオを活用して注意を促す】
 
 市内で特殊詐欺等が多発した際に、市のホームページで多発警報を発出し、警報発令時に配布される市政ニュースには、必ず詐欺の手口に関する情報を掲載することを提言する。
 また、広報車による広報に加えて、防災スピーカーや緊急告知ラジオを有効活用するべきである。

 
 西宮市役所が早く打破すべき縦割り行政の問題です。防災スピーカーの管理を担当する局と特殊詐欺対策を担当する部署が連携できるかどうかにかかっています。

提言②
【警察から情報を毎日収集し、被害状況や手口等を市ホームページで発信する】

 高齢者はホームページを確認する習慣がないことが考えられるが、ご家族の方が確認して注意を促して頂くことも想定して、最も迅速な情報提供が可能なホームページでの情報提供を実施するべきである。

エ)その他の意見・提言

提言①
【民間企業による特殊詐欺対策サービスについて情報提供する】
 民間企業による特殊詐欺対策サービスにも期待するところではあるが、一方で、新たな詐欺を生み出す危険性もはらんでいる。そこで、行政が一定の有効性を確認できたサービスや機器については、市のホームページや市政ニュース、民生委員や老人クラブ等の活動を通じて情報を提供することを提言する。
提言②
【民間企業によるAIを活用した特殊詐欺対策の効果を民間企業との協働により検証する】

 NTTが提供するAI技術を用いた特殊詐欺対策サービスについて勉強会を開催したが、今後の内容の充実により効果が上がることが期待される。そこで、「市民モニター」を募り、民間企業との協働により効果検証を実施することを提言する。

2.関係機関等との連携について
ア)市の組織のあり方

提言
【特殊詐欺対策についても防犯の部局が主体的に取り組む】

 特殊詐欺対策の取組みについては、現在は消費生活センターによる啓発が中心となっているが、特殊詐欺を未然に防ぐためには、警察との連携による市民との情報共有が不可欠と考えられることから、現在の西宮市の地域防犯課が主体となって特殊詐欺対策に取り組むよう提言する。そして、啓発活動については消費生活センターとも連携して取り組むようにするべきである。

イ)警察との連携

提言
【市は警察との連携の強化】

 西宮警察署と甲子園警察署との勉強会において、警察署も市との連絡体制の強化を求めていることが判明した。そこで、形式にこだわらず、情報交換の機会の頻度を上げ、市としてできる未然防止策を検討するべきと考える。また、柏市との勉強会により得た情報であるが、西宮市においても、毎朝、特殊詐欺の被害状況について警察署に問合せをして情報収集にあたり、警察との連絡を密にすることから始めることも考えられる。
 そして、一過性の体制ではなく、継続的に警察と連携するために、その根拠となる条例の制定が必要と考える。

ウ)金融機関との連携

提言
【現状では警察に任せるしかない】
 理由は、金融機関と連携するための法的な根拠が乏しいと考えるからであり、協力を求める根拠となる条例を制定した上で、警察と連携して金融機関にも協力を求めるべきと考える。また、包括連携協定の活用についても検討するべきである。

エ)民間事業者(ATM設置店舗等)との連携

提言

【現状では警察に任せるしかない】
 理由は、金融機関と連携するための法的な根拠が乏しいと考えるからであり、協力を求める根拠となる条例を制定した上で、警察と連携してATMを設置する民間事業者等にも協力を求めるべきと考える。今後、包括連携協定の活用も検討して頂きたい。

オ)地域の防犯組織との連携

提言
【西宮防犯協会の機能強化と市による防犯協会未加入地域での取組みの強化】

 昨年の特殊詐欺の被害の増加を鑑みると、防犯協会の機能強化は急務と考える。併せて、防犯協会を退会した地域で結成されている防犯組織に対しても公平に防犯情報を提供することで、住民に対する活動を促していただきたい。

3.その他

提言①
【特殊詐欺対策に特化した条例を制定し、継続的な取り組み推進体制を構築する】

 特殊詐欺については、対策を講じても次々と新たな手口が発生する傾向にあり、一過性の取り組みではなく継続的な取り組みが必要と考える。市と警察や金融機関等を構成員とした検討委員会を設置して条例の必要性を検討することで連携が深まることが期待でき、さらに、条例を制定することで、今後の継続的な取り組みが可能になると考えられることから、市も特殊詐欺対策に特化した条例を制定することを提言する。

 私としては、この部分の提言が最も重要だと考えていたのですが、他の委員からの指摘があり、「その他」の項目で提言することにしました。市長が条例を提案しないのであれば、議員提案をしてでも制定して取り組むべき課題であると考えています。議員提案で条例化した事例として、愛知県半田市さんの取組みをWEB勉強会により研修させて頂き、一定の有効性を確認しています。

 議員提案となるとかなりハードルが上がりますが、今後の犯罪の発生状況と市の対応を見て判断しなければなりません。

提言②
【特殊詐欺の検挙率の向上も期待できることから、防犯カメラは引き続き増設して頂きたい】

 市民からも警察署からも市による防犯カメラの増設が切望されている。そして、防犯カメラを活用することにより警察に検挙率を上げて頂くことで、路上犯罪が減少していくことが期待される。また、画像データのやり取りや設置場所の検証等の機会を増やすことにより、警察との連携もより強化されることも期待されることから、引き続き、市が防犯カメラを増設するべきと考える。
 また、市が防犯カメラを設置し始めたのを機に、地域による防犯カメラの設置に対する補助金が廃止されたが、今後、地域の安心感を得るために、地域が主体となって防犯カメラを設置する際の補助制度を復活するべきである。

 5月に提言した内容は以上となります。
 特殊詐欺対策の改革は喫緊かつ重要な課題と考えています。今後の市の対応を注視し、議会から行政を動かす方法を考えてまいります。

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