産後のケア体制について①ー令和2年12月議会一般質問

2021年3月13日[カテゴリ:子育て・教育, 質問

 東日本大震災から10年が経過しましたが、先月13日に震度6強の余震が発生し、まだ震災が終息していないことを痛感しました。被災された方々、そして未だ不自由な生活を余儀なくされている方々に対しまして心からお見舞い申し上げます。

 現在、西宮市議会は3月定例議会の会期中ですが、先日10日(水)に常任委員会の審査を終え、民生常任委員会で審査されました「西宮市廃棄物の処理及び清掃に関する条例の一部を改正する条例制定の件」(ごみ袋の指定袋制の導入案件)を始めとする全ての議案は承認されました。今月23日(火)の本会議で議決される予定です。
 
 さて、
 今回のコラムでは、令和2年12議会一般質問で取り上げました産後のケアについて掲載します。
 
 出産前後の子育て支援、心身のケアについては、いくつかの法律に基づいて様々な支援事業が行われるようになりました。しかし、新たな取り組みが始まるのはありがたいのですが、逆に複雑化してしまい、一つ一つの取組みの情報が子育て世帯に十分に伝わらなければ、利用しづらいものとなってしまいます。
 
 一つの事例として、西宮市では平成30年より自宅訪問型の「産後ケア事業」が始まりましたが、「ケアを申し込んだら対象外ということで断られた」、「どんな症状であればケアをお願いできるのか分からない」、「すぐにお願いしたかったのに1週間先まで予約が取れなかった」など、この事業が利用しづらい状況にあるという市民からのご意見を頂きました。
 
 調査を進めると、産後ケア事業を実施するために、令和元年度に約1300万円の事業費を予算化して実施したものの、令和元年度の利用者はたったの63名に留まっており、西宮市での出生数が年間4000人近くであることを勘案すると、ケアを受けられる方は極めて限定的になっていると言わざるを得ない状況でした。
 民間の助産師をしている方の情報では、民間の助産師による産後ケアを利用する方は、もっと多数いらっしゃるということでした。そして、市の産後ケアを利用できた場合は、1回2000円で4回まで受けることが可能ですが、民間の助産師にお願いした場合は保険が適用されないので、ケアの内容によって異なりますが、1回あたりの自己負担が7000円~1万2000円くらいになるとのことでしたので、ケアが必要な方に確実に低負担で産後ケアを受けられる制度にする必要性を感じました。
 
 そこで、産後ケアを必要とする方を確実にケアにつなげられるよう、以前から実施されている「新生児訪問」事業を入口にできないのかと考えました。

 新生児訪問とは、母子保健法に基づいて実施されている事業で、生後2ヶ月までの新生児を対象にして保健師や助産師が訪問して保健指導を行う事業です。

 西宮市では「赤ちゃん訪問」と呼んでいます。

母子保健法の抜粋
第10条(保健指導) 市町村は、妊産婦もしくはその配偶者又は乳児もしくは幼児の保護者に対して、妊娠、出産又は育児に関し、必要な保健指導を行い、又は医師、歯科医師、助産師もしくは保健師について保健指導を受けることを勧奨しなければならない。

第11条(新生児の訪問指導) 市町村長は、前条の場合において、当該乳児が新生児であつて、育児上必要があると認めるときは、医師、保健師、助産師又はその他の職員をして当該新生児の保護者を訪問させ、必要な指導を行わせるものとする。ただし、当該新生児につき、第19条の規定による指導(未熟児の訪問指導)が行われるときは、この限りでない。
2 前項の規定による新生児に対する訪問指導は、当該新生児が新生児でなくなつた後においても、継続することができる。

 
 市が実施している新生児訪問の根拠となる条文です。なお、「この法律において「新生児」とは、出生後28日を経過しない乳児をいう。」と同法の第2条で規定されています。アンダーラインを引いた「育児上必要があると認めるとき」とあるのがポイントで、市がこれをどのように把握しているかが問題であると私は考えてました。
  
 西宮市の新生児訪問の実績は、⇓下の表のとおりになっています。

 令和元年度の乳児訪問件数が1681件ということで、年間出生数の半数にも満たないことが分かります。
 
 妊娠後に母子健康手帳が交付されますが、基本的にこの手帳に添付されている出生連絡票(葉書)を送った方を対象に市の保健師が連絡をし、訪問指導の必要性を判断しているため、出産直後の全てのご家庭の状況を把握できておらず、4か月児健診の時に初めて98.9%の方を把握できていることになります。
 出産後4ヶ月未満の方を対象にする「産後ケア事業」を始めたということは、特に母体のケアが必要なケースは4ヶ月までが圧倒的に多く、4か月児健診までに母子の状況を把握することが重要ということになります。

 そこで、まず、産後の『様々なケアの入口』となりうる「出生連絡票」の回収率を上げる必要があると考えました。
 つまり、西宮市では現在、低体重で生まれた場合は必ず返信してくださいとなっていますが、そうでない場合は、保健所からの保健指導を希望する方のみ提出することになっていると理解されているところを、出生届を提出すると出生連絡票も記入して同時に提出して頂くか、返送してもらうようにお願いし、原則全ての母子を対象に連絡をしてケアの必要性を把握するべきではないか、という議論をしました。
 
====本会議場での議論の概要====

令和2年12月議会一般質問

2.産後ケアについて
ア)新生児訪問指導
■質問の背景(田中まさたけ)

 現在、母子保健法に基づく「赤ちゃん訪問」が、おおむね生後2か月までの乳児とその御家族を対象に、保健師、助産師が訪問し、お子様の発育・発達、育児や家族の体調、産後鬱等の相談を受け、指導助言を実施しています。これは、児童福祉法に基づいて生後2か月頃以降に民生委員の方々に訪問をお願いしている「健やか赤ちゃん訪問」とは性質、役割が全く異なる事業です。

 本市では、妊産婦に対する支援の取組みが様々な形で実施されておりますが、適切なサービスを選択しづらい状況が生まれている様子で、コロナ禍で様々な行事が中止された際には、なおさら分かりやすく情報を提供する必要があると感じております。また、出産直後1か月ぐらいまでの女性は、心身ともに非常にデリケートな時期ということで、コロナとは関係なく、専門家によるアウトリーチ型のケアの拡充を求める御意見が届いております。

 本市では、母子健康手帳の交付の際に保健師による面接を強化するなどして、妊娠期からの継続的なケアができるよう取り組まれております。しかしながら、保健師もしくは委託先の助産師による赤ちゃん訪問の件数は、資料にも示しましたとおり、令和元年度の出生を事由とする住民基本台帳異動件数3,826件――これは誕生した赤ちゃんの人数ですが、それに対して保健師及び助産師による家庭訪問は1,681件と半分にも満たない状態となっています。

 厚生労働省の報告では、特にゼロ歳、その中でも月齢ゼロか月の新生児の虐待死の割合が最も高くなっており、産後2か月間のケアは、母子保健の観点からも、虐待防止の観点からも非常に重要であり、対応の強化が必要と考えます。

■質問1(田中まさたけ)
 母子保健法に基づく赤ちゃん訪問を受けるためには、現在、母子健康手帳に附属している出生連絡票のはがきを出して頂く必要があり、このはがきは、現在は低体重児の出生を除いて任意の提出となっております。これを必ず提出して頂くように依頼し、保健師からの連絡を原則全ての母子を対象に実施できるようにすべきと考えます。
 そして、必要な方へ保健師及び助産師による早期の訪問指導を強化することで、母子の保健指導と虐待の防止が可能となり、その後の必要な支援へと確実につなげることができるようになると考えますが、市の見解をお尋ね致します。

■質問1に対する市の回答
 まず、新生児訪問指導のうち、母子健康手帳に附属している出生連絡票につきましては、交付時の面接において、提出頂くよう皆様に説明しております。そして、出生連絡票は、出産直後でも記入し、切手不要で投函することができ、出産医療機関にも提出を促すよう依頼しております。また、新生児訪問につきましては、電話での御連絡も受け付けております。
 
 しかし、はがきの返却は、令和元年度で1,441件、出生数の約39%にとどまっていることは課題と受け止めております。今後さらに出生連絡票の案内文を分かりやすい表記に変更するよう検討し、母子保健法第11条にあります育児上の指導の必要性がある新生児の保護者を把握する取組を強化することで、さらに多くの新生児訪問指導が行えるように取り組んでまいります。

■質問2
 今年の春の緊急事態宣言時には、訪問やケアについても制約を受けたと伺っております。中央、鳴尾、北口の保健福祉センターにおけるオンラインでの相談や妊産婦の出産前のPCR検査に対する公費助成などの支援を開始されました。今後もさらに、出産前後の母子の孤立を防ぐとともに、必要なケアを安心して受けてもらえるよう、訪問指導の委託先のオンライン対応の強化など、コロナ禍での赤ちゃん訪問における感染防止対策を強化する必要があると考えますが、市の見解をお尋ね致します。

■質問2に対する市の回答
 訪問指導のオンライン化につきましては、10月より開始しております。新型コロナ感染症の陽性患者が増える中、オンラインの需要も増えることが考えられることから、オンライン対応の委託についても検討してまいりたいと考えております。

■意見・要望(田中まさたけ)
 1点、気になっていることがございまして、壇上でも申しました「赤ちゃん訪問」という名称です。こちらは、民生委員の方々にお願いしております「健やか赤ちゃん訪問」と混同されている方もいらっしゃるのではないかと感じています。この分かりやすい名称への変更、例えば(母子保健法に基づく赤ちゃん訪問には)「ケア」という文言が入っているほうが想像がつきやすいのではないかと思われますので、一度御検討頂け
ればと思います。
 
 もう一つが、お子様の情報の共有についてです。
 多くの子供たちは、保育所や幼稚園に入園することとなります。保健所が把握した情報が子供たちが利用を予定している施設側に、入園前にうまく伝わっていないという御意見を頂きました。現在も保健所のほうでは、保護者の同意の下で情報提供をして頂いているとのことですが、特に支援が必要なお子様の情報については、施設側のほうで迅速に継続的な支援体制を準備してもらうためにも、保護者の同意のほうを積極的に得て頂いて、保健所が把握している情報を迅速に引き継げるように、こども支援局のほうで子育て支援施設側の状況を確認して頂いて、こども支援局と保健所の連携を強化し、必要であればデジタル化や情報共有のシステム化も含めて御対応を検討して頂きたいと思います。今回は要望にとどめておきたいと思います。

====ここまでが本会議場での議論の概要====

 市の回答では、前向きの姿勢を示して頂いたと思っています。今後も動向を注視してまいります。

 なお、民生委員の皆さんにお願いしている「健やか赤ちゃん訪問事業」は、以下の法律に基づいて実施されています。

児童福祉法の抜粋
第6条の3
4 この法律で、乳児家庭全戸訪問事業とは、一の市町村の区域内における原則として全ての乳児のいる家庭を訪問することにより、厚生労働省令で定めるところにより、子育てに関する情報の提供並びに乳児及びその保護者の心身の状況及び養育環境の把握を行うほか、養育についての相談に応じ、助言その他の援助を行う事業をいう。

第21条の10の2 市町村は、児童の健全な育成に資するため、乳児家庭全戸訪問事業及び養育支援訪問事業を行うよう努めるとともに、乳児家庭全戸訪問事業により要支援児童等(特定妊婦を除く。)を把握したとき又は当該市町村の長が第二十六条第一項第三号の規定による送致若しくは同項第八号の規定による通知若しくは児童虐待の防止等に関する法律第八条第二項第二号の規定による送致若しくは同項第四号の規定による通知を受けたときは、養育支援訪問事業の実施その他の必要な支援を行うものとする。
2 市町村は、母子保健法(昭和四十年法律第百四十一号)第十条、第十一条第一項若しくは第二項(同法第十九条第二項において準用する場合を含む。)、第十七条第一項又は第十九条第一項の指導に併せて、乳児家庭全戸訪問事業を行うことができる。
3 市町村は、乳児家庭全戸訪問事業又は養育支援訪問事業の事務の全部又は一部を当該市町村以外の厚生労働省令で定める者に委託することができる。
4 前項の規定により行われる乳児家庭全戸訪問事業又は養育支援訪問事業の事務に従事する者又は従事していた者は、その事務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。

第21条の10の3 市町村は、乳児家庭全戸訪問事業又は養育支援訪問事業の実施に当たつては、母子保健法に基づく母子保健に関する事業との連携及び調和の確保に努めなければならない。

 法律の条文は本当に分かりにくく作られています。

 保健所が兵庫県から移管されて20年が経過します。児童福祉法第21条の10の3にあるとおり、西宮市はせっかく保健所を設置している中核市なのですから、その利点を生かして、「赤ちゃん訪問」事業を担当する保健所(健康福祉局)と「健やか赤ちゃん訪問」事業を担当するこども支援局が連携を強化し、それぞれの訪問の役割分担の明確化と情報共有を進めれば、もっと行政サービスは向上するはずです。

 西宮市が実施している産後ケア事業についての議論については、次のコラムに掲載します。

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