保育所待機児童の状況ー将来ビジョンの欠如

2021年6月2日[カテゴリ:コラム, 子育て・教育

待機児童が解消されない要因

 先日、西宮市での保育所待機児童の状況が発表されました。

 令和3年4月時点の厚生労働省の定義に基づく待機児童数は182名となり、昨年よりも大幅に減少しました。近年の推移は以下のとおりです。

H29年度⇒H30年度⇒H31年度⇒R2年度⇒R3年度
323名 ⇒413名 ⇒253名 ⇒345名 ⇒182名

 しかし実際には、認可保育所等に希望を出して入所できなかった児童(利用保留児童)は、昨年より98名増加して1034名もいます。通常、年度途中で子供が保育所に入所できる月齢、年齢となり、利用保留児童は増え続けますが、年度当初の4月時点で1000名を超えたのは初めてです。

 年度初めの時点で希望する保育所に入れなかった児童数の推移は、以下のとおりです。

H29年度⇒H30年度⇒H31年度⇒R2年度⇒R3年度
830名 ⇒828名 ⇒761名 ⇒936名 ⇒1034名

 この厚生労働省の定義に基づく待機児童の人数と利用保留児童の人数の差がなぜこれだけ大きくなるのか。
 
 まず、保育所の「保育所入所申込者数」から「入所児童数」を引いた人数が「利用保留児童数」となります。今年はこの人数が1034名となりました。

この利用保留児童数から

①育児休業中の方:174名
②求職活動を休止されている方:35名
③企業主導型保育所に入所されている方:157名
④特定の保育所等のみを申込されている方など:486名

を差し引いた人数が「厚生労働省の定義に基づく待機児童数」となり、国に報告されます。

 特に、「④特定の保育所等のみを申込されている方など」の最後に「など」が入っているところが、私たちに実態を見にくく分かりにくくしています。
 
 仮に486名全員が保育所等を選ばずに入所希望を出せば、現実的に通える範囲の保育所等に入所できるわけではありません。特に1歳の方などは仮に保育所を指定しなくても入れない状態となっていますので、こうした児童数までが486名に含まれていること自体おかしく、待機児童数を実際よりも少なく印象付けることにもなります。
 
 また、この486名の児童の中には、市の補助金を活用して認可外保育所を利用している方もいらっしゃると思いますし、協力私立幼稚園制度を利用される方もいらっしゃると思いますが、486名の方がどのように生活をされているのか、5月が終了した時点でもまだ調査中(アンケート)で、数字は報告されません。

 少子化対策や女性活躍など、国では言われてきましたが、今の西宮市の保育所政策ではうまくいかないと思います。

 それは、生活者の目線で政策が練られていないからです。

 例えば、保護者の通勤の都合だけを考えている方が多いとは思えません。子供は保育所で6歳まで過ごした後に小学校に進学することになります。転勤もあるかもしれませんが、卒園後の子供の生活を考えると「預かってくれる保育所であればどこでもいい」とはなかなかならないと思います。また、兄姉がすでに保育所を利用していたら、別々の保育所に預けることが難しい家庭が多いと考えるべきです。これらの動向は毎年の保護者の希望の傾向を分析する必要があります。

 北部地域の保育所に空きがあるとしても、南部地域在住の方が山を越えて北部地域の保育所に毎日預けるのは、仮に通園バスを整備したとしても、子供の負担を考えれば現実的ではありません。以前から必要性を提言している「兄弟枠」(←クリックするとコラム「保育所入所選定における第2子以降の優先枠の拡大」)も未だに設けていませんから、兄弟がすでに保育所に入園していて、利用保留になってしまった場合は引っ越しも考えにくいと思われます。
 
 繰り返しになりますが、子育て世帯の生活ベースで政策が考えられていないから、待機児童がいつまで経っても解消できないのだと考えています。

現在の市の待機児童対策

 当然、市も何も対策をしていないわけではありません。毎年、新しい保育所を整備し続け、保育所等の入所者数も増加しています。
 年度別の入園者数の推移は以下のとおりです。

H29年度⇒H30年度⇒H31年度⇒R2年度⇒R3年度
7261名 ⇒7282名⇒7633名⇒7921名⇒8275名

 それでも、どうしても保育所整備のペースがニーズに追い付かないのであれば、しばらくの間、既存の施設を活用してもらうしかないと考え、平成30年12月議会一般質問(←クリックするとコラム「保育所行政における不公平の是正」が開きます。)において、認可外保育所利用者の負担を軽減するための補助制度の創設を提案したこともあります。

 この政策は市にも受け入れてもらいましたが、あくまでも暫定措置であって、1年でも早く希望する方が認可保育所に入園できて、この制度が必要なくなるような環境になって欲しいと願っています。

 「待機児童ゼロ」は、現在の市長の重点選挙公約でした。この件についても、平成30年12月議会一般質問(←クリックするとコラム「西宮市の保育所待機児童解消の見込み」が開きます。)において、待機児童の解消の見込みについて取り上げ、待機児童解消計画を示すよう求めたことがあります。
 この時の議論では、「幼児教育・保育の無償化の影響を見きわめながら、計画を策定したい」との答弁があり、昨年8月にその見込みが示されました。

 その見込みの中で、来年度令和4年度から、定員を満たしていない公立幼稚園の施設を活用する連携公立幼稚園制度(4歳、5歳)を導入することが発表され、早速今年から4歳以降の入園先が保障された「国家戦略特区小規模保育事業」(1歳~3歳)が始まりました。
 また、従来通りの新設の保育所や認定こども園の整備するなどし、令和3年4月は504名の定員拡大、来年4月には678名の定員を拡大する予定となっています。その他、私立幼稚園の協力も得ながら、待機児童の受け入れ枠を増やしてもらっています。

 しかし、その国家戦略特区小規模保育の利用者は、定員を大幅に下回ってしまいました。

不人気だった国家戦略特区小規模保育

 令和2年12月議会一般質問(←クリックするとコラム「行政経営について」が開きます。)において、特区を活用して公立連携幼稚園制度の導入を決めた市に対して、行政経営の観点から非効率すぎることを指摘していました。それでも、ニーズがあればやむを得ないと考えていましたが、ニーズも低かったことを表した結果となりました。

市立夙川幼稚園を連携先とする特区保育所(3園)の入所者は、
1歳児:6名(定員18名)
2歳児:2名(定員18名)
3歳児:3名(定員21名)
でした。

市立越木岩幼稚園を連携先とする特区保育所(2園)の入所者は
1歳児:5名(定員12名)
2歳児:2名(定員12名)
3歳児:2名(定員14名)
でした。

市立高木幼稚園を連携先とする特区保育所(3園)の入所者は比較的多かったものの
1歳児:16名(定員18名)
2歳児:12名(定員18名)
3歳児:5名(定員21名)
でした。

 来年、市立幼稚園に通うことになる3歳児の入所者が非常に少なかった越木岩幼稚園では、急遽予定を変更して来年度は預かり保育を実施しない方針を示しています。つまり、越木岩幼稚園を連携先とする特区保育所に通う子供は、夙川幼稚園に通園できることになるそうです。
 
 私立幼稚園による協力幼稚園制度の利用者は、昨年度76名(令和2年11月現在のデータ)でしたが、さらにこの制度を改善するか認定こども園への移行支援に力を入れた方が、ニーズの充足の観点からも、効率性の観点からも得策であると考えています。この点は、昨年の12月議会で指摘しています。

 連携公立幼稚園制度などニーズも低くて非効率な政策を練っている暇があったら、まずは将来ビジョンを策定して、これまで実施してきた協力幼稚園制度の環境改善や認定こども園への移行促進政策など将来の保育施設の過剰整備を抑える政策を練って進めるべきです。

 将来ビジョンなき政策推進のツケは、結局、将来の市民が払うことになるのです。

いつまでも場当たり的な対応から抜け出せない西宮市

 西宮市でも少子化は確実に進んでおり(←クリックするとPDFファイルが開きます。)、コロナ禍にあった昨年の全国の出生数は大幅に減少し過去最低だったそうです。
 一方で西宮市では、新しい保育所を増やし続けています。

 なのに、なぜ保育所整備がニーズに追い付かずに待機児童が解消されないのか。

 一つは、保育所の無償化にあると思われます。西宮市では、待機児童を解消できず、入所する要件は満たしているのに無償化の恩恵に預かれない人が現れるという「不公平が放置される結果」となっています。

 もう一つは、長年にわたり、社会情勢の変化を考慮せずに政策を進めてきたツケと言っていいと思っています。

 核家族化と共働き世帯の増加、近年ではひとり親世帯の増加が進むなか、市民の生活の変化に目を向けずに、少子化対策という名の根拠のない施策だけを先行して進めてきた結果、「保育所に子供を預けられない」という環境が残されてしまいまいした。
 
 地方にも責任があります。これら国が打ち出した政策を単に場当たり的に遂行するだけで、政策の求める本質を考えることなく、そして、自分のまちの事情、特色を考慮せずにお役所仕事を進めてきた結果なのです。
 
 これらは、他の自治体も同じ条件のはずです。そのような中で、西宮市の待機児童数が全国と比較して上位であるというのは、繰り返しになりますが、西宮に住む市民の生活ベースで政策が構築されていないからだとしか考えようがありません。

 西宮市では、私立幼稚園を利用される方が大変多いまちでしたので、なおさら、社会情勢の変化に応じた将来ビジョンの設定と計画的な政策推進が不可欠であったと思います。また、文教住宅都市としての生活環境、教育環境や子育て環境を特色にしてまちづくりを進めてきた自治体にとして、将来ビジョンを明確にせずに場当たり的に政策を進めてしまうと、こうした状態になることは自明だったと思います。

 このことについても、これまで、市民から頂いた意見を受け止めて本会議一般質問で取り上げ、保育所の将来ビジョンの必要性についても指摘してきました。私が子育て支援政策におけるビジョンの必要性を指摘したのは、10年以上前の平成21年12月議会(←クリックするとコラム「今後の幼稚園の方向性」)でした。

 その後も、具体的な課題を解消するための政策を提言する際に、将来ビジョンの必要性を主張してきました。

 地方版人口ビジョンと少子化対策ー平成27年6月議会一般質問

 西宮市で保育所待機児童が解消される見込みは?ー平成27年12月議会一般質問

 地道に議会で議論してきたわけですが、最近特に、子育て政策に限らず、目先しか見ない、場当たり的な政策推進が目立ってきたように感じています。財政的なツケも含めて、将来に生じる不利益は、必ず将来の市民が負担することとなります。それは市政を預かる一員として何としても避けたいという思いを強めています。

 地方議員は、限られた発言時間の中で、市に対して政策を提言することしかできません。今後、これ以上どうすれば提案してきた政策を市に受け入れてもらうことができるのか、考えなければならないと思っています。

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